web版アニメ批評ドゥルガ

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アニメに纏わる記事を書いています。毎月第四水曜日に更新。担当者が異なります。

円形を見つめるあずにゃん――『けいおん!』をめぐって(3)

二期13話「残暑見舞い!」でも、梓は夢を見ます。

 

(二期13話の紹介ページ↓)

www.tbs.co.jp

 

夏休み、三年生四人が勉強で忙しくしているなか、梓は暇を持て余していました。夏の熱に浮かされたように梓は憂や二人の同級生の純と遊びに出掛けた先でも居眠りを繰り返し、そのたびに三年生が登場する奇妙な夢を見てしまいます。

例えば今敏監督の作品ほど夢と現実の間が曖昧になるわけではありませんが、工夫の凝らされたカット割りや演出によって現実から夢への移入が極めてシームレスになっており、気づいたら夢のシーンに入っていたと一回目に見たときに感じる人は多いのではないかと思います。逆に夢から目覚めるときにも、細部同士の連関によって夢と現実のあいだはスムーズな連続性が保たれていきます。一つ目の夢では梓が唯の家にスイカを持っていくのですが、夢から目覚めたときにソファーで居眠りをしながら手に持っていたのはスイカバーでした。あるいは映画館で前に座った澪の携帯が鳴りやまないという夢の場面から、音楽室のテーブルの上に置いてあった携帯のバイブレーションで目を覚ますという風に場面がつながったりもします。

夕方、思いっきり遊んだあとの帰り道を歩いていると梓たち三人は三年生四人に偶然出くわし、七人は一緒に夏祭りに行くことになります。やっぱり先輩たちといると楽しいな、と梓がぼうっと考えていると、向こうの方で花火が始まります。唯が梓の手をとり、三年生たちと音の鳴る方へ走り出します。しかし梓は唯たちとはぐれてしまい、花火は終わってしまいました。梓と合流した憂と純は少し唯たちを心配するのですが、大丈夫だよ、きっと、と梓は答えます。

この話数で一貫しているのは三年生四人を梓が見るという視点の位置です。一人称的な梓の夢が繰り返される一方、三年生たちについては外面的な描写のみがなされます。モノローグがあるのも梓だけです。ここで梓は視点人物としての立ち位置を得ていることになります。

特にこのエピソード以降、梓は四人を横から見つめるような存在として描かれることが多くなっていくように思います。当然梓の視点ですべての物語が構成されているわけではありませんが、やがて卒業していってしまう四人の横顔と後ろ姿を見つめる位置は、『けいおん!』を観る視聴者の位置とも一致します。つまり、梓は視聴者のアバターとしての役割を物語のなかで担うことになっていくのです。

映画けいおん!』でも梓は特権的な位置に立っています。梓のために三年生四人がサプライズのプレゼント(楽曲)を贈ることが物語の主軸になっているからです。四人が何かしているところへ最後に梓が加わるという場面はとても多いのですが、劇中で特に繰り返されるのは、梓がいないときにこっそり四人がサプライズの計画や歌詞を考えているところへ梓が入ってきてしまって、四人がばれないように慌ててごまかすという場面です。その行為はもちろん梓への愛ゆえにということではあるのですが、ここで三年生四人は四人だけで自立した行動をとっており、梓はそこへ入らない(入れない)という構図になっています。そして最後の卒業式の日の演奏場面において、梓は四人と一緒に音を奏でるのではなく、四人の音を受け止める側に回ることになります。それはもちろん、ただ彼女たちの声をきく観客=視聴者の位置でもあるのです。

卒業によって、五人だった放課後ティータイムの関係は四人と一人に分かれます。四人は軽音部を去り、舞台の上から去っていきます。観客席には梓がひとり残り、また視聴者がひとり残るのです。

 

ところで、先の二期13話「残暑見舞い!」では、かなりたくさんの円のモチーフがカットのなかで使われています。夢のなかで唯の家に持って行ったスイカ、音楽室から見下ろせる前庭(校門と後者の間のスペース)にある大きな円形の噴水、また別の夢のなかで登場する福引のガラガラ(抽選器)、打ち上げ花火など円形のものが20分のなかでよくアップになります。こうした細部同士のつながりがこの話数をたゆまずに最初から最後まで見せる力を持っていることはもちろんなのですが、この円のモチーフは最後の場面でより深い意味をもつことになります。

夏祭りから帰ったあと、梓はシャワーを浴びながら一日の出来事を思い返していました。身体を洗った泡がシャボン玉のように丸く浮かんで上へのぼっていくのを目で追いながら、梓は一連の出来事がひょっとしてまた夢なのではないかとぼんやり考えます。そして梓は、「そっか、私、もうすぐひとりになっちゃうんだ」と気づくのです。円を目で追うことと三年生たちの卒業を目で追うことが、この場面ではぴったりと重なっています。

映画けいおん!』でもまた、円は重要な細部として画面のなかに頻繁にあらわれます。そのテマティックな演出はTVシリーズのなかでも特にこの「残暑見舞い!」を踏襲しているのではないかと思わされます。なぜなら、その形とつながっていくのはやはり、日常の時間とその終わりだからです。

 

 

◆前回記事はこちら↓

 

durga1907.hatenablog.com

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(奈)