web版アニメ批評ドゥルガ

死を看取ること『空の境界』

夏って感じですね!

先日夏コミに行ってきました。そこでアニバタという長く続いてる批評同人誌の、新刊は『けものフレンズ』特集でしたが、私は興味のある特集のバックナンバーを買いました。『ドゥルガ』2号も秋の文フリで頒布できるように頑張りたいと思います。

今年の夏コミで一番目立った作品、いわゆる“覇権”は、『けものフレンズ』かもしくは『Fate/Grand Order』(以下FGO)のように見えました。コスプレの人数も同人誌の冊数もこの二作品が席巻していました。
特に『FGO』のTYPE-MOONはもともと同人サークルで『空の境界』『月姫』はコミックマーケットで頒布されたものというのは周知のことで、『Fate/stay night』でメジャー化した同人サークルがそのFateシリーズで凱旋したというふうに思えます。もちろん『空の境界』が映画化した際にもTYPE-MOONが一般参加して『空の境界 未来福音』という同人誌を頒布したわけですし、今回の定期更新はFateシリーズより以前の作品『空の境界』について書きます。

ここから先は奈須きのこ著『空の境界』のネタバレを含みます。

 

 

空の境界(上) (講談社文庫)

空の境界(上) (講談社文庫)

 

 1〜7章+終章と外伝が二本で前述の「未来福音」と「終末録音」がある『空の境界』ですが、時系列通りに並べると2→4→3→1→5→6→7→終章で、外伝「未来福音」は3→1の間と終章の次になります。

主人公・両儀式が高校一年の冬に交通事故に遭い、三年間の昏睡の後に奇跡的に意識を回復しましたが、自分の半身、もう一つの人格で、男であり、肯定の「式」に対して否定の「織」を失っていました。彼には強い殺人衝動がありましたが、自分を殺すことでそれを耐えてきました。高校の同級、黒桐幹也両儀式が交通事故に遭う原因となった少年であり、彼女の回復を待ち続け、大学入学後すぐ中退して人形師・蒼崎橙子のアトリエに就職します。臨死体験をきっかけに死の線が視えるという異能力に目覚め、自暴自棄になった両儀式を橙子は雇います。彼らの前には両儀式と似た異能の力をもった少女が二人現れ、両儀式はそれを撃退、彼女たちの裏で糸を引いていた僧侶・荒耶宗蓮と対峙し消滅させ、最後の敵として三年前に両儀式黒桐幹也のまわりで起きていた殺人の犯人、白純里緒が立ちはだかり、黒桐幹也の静止も虚しく両儀式は白純を殺めてしまいます。

両儀式の祖父は人は一人しか殺せない、自分をあの世に送るときだけだと言い、彼女の殺人衝動を抑圧していました。その挿話を聞いていた黒桐幹也両儀式の死後、彼女をあの世に送るために自分の魂を使うと言います。あらゆるものの死を視ることができる両儀式にとって自分の死の瞬間を看取る黒桐幹也は自身の内側にあった半身にさえもなれなかった彼女の夢となり、もっとも外部的なものである死の恐怖から手を切っているとも言えるのではないでしょうか。

 

この作品には陰陽道や精神と肉体などの二元論が多く、終章のいわゆるアカシックレコードを見ている存在の話もあいまって、極めて超越論的な物語だと思います。世界の終わりを思わせるような外伝「終末録音」や物語の終わりを思わせるような未来視の外伝「未来福音」から、歴史の終わりを感じさせます。それは『FGO』にまで続く一貫したテーマなのだと思いますが、むしろ私はこの死を看取るという『空の境界』の両儀式黒桐幹也が結実させたモチーフに注目したいです。それこそ奈須きのこの謳う人間賛歌ではないでしょうか。