web版アニメ批評ドゥルガ

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アニメに纏わる記事を書いています。定期更新は毎週水曜日。毎週担当者が異なります。

吹奏楽曲を紹介しながら『響け!ユーフォニアム』について語る

きのうドゥルガのサークル員と一緒に『劇場版 響け!ユーフォニアム~届けたいメロディ~』を観てきました。

 

anime-eupho.com

 

「届けたい」というフレーズはたとえばJポップの歌詞などでよく見られますけれど、『きみの声をとどけたい』などもありましたし、近年流行ってきているのでしょうか。予告編で京都アニメーションの新作映画が告知されていましたが、片方の副題は "Take On Me" (『映画 中二病でも恋がしたい!』)かたや "Take Your Marks" (『特別版 Free!』で、やはり言葉にも流行があるんじゃないかと思いました。もっとも水泳アニメの『Free!』で "Take Your Marks" (スタート直前の「用意」の掛け声)というフレーズが採用されるのは必然ですし何よりtakeという基本動詞でそんなこと言ってもしょうがないのでほとんど冗談のようなものです。

「届けたい」という言葉がえてして含意するものはコミュニケーションの一方向性です。相手がまだ知らないこちらの意思や感情を知らせようと思う過程があってはじめて「届けたい」という考えが生まれます。それは場合によっては自分のことをさりとて特別だとは思っていない相手を振り向かせたいという欲望にも結びつきます。

この劇場版は二期の総集編ですが、特に主人公・黄前久美子ユーフォニアム)とその先輩・田中あすか(同)の関係に焦点を絞って描かれています。ある種「みんなの副部長」であり部全体に対してもかなりの影響力をもっているあすかと、部内ではあくまで一介の新入部員であるのみでただ同じ楽器であるがゆえにあすかと接する機会の多い久美子という非対称的な関係が軸となっていることがよりはっきりするわけです。そうした関係は家族を置いて自分の目的へ向かう久美子の姉と彼女から大きな影響を受けた久美子という関係などとも重なるわけですが、総集編という形で短い尺に収めることの難しさを感じたのは、それを暗示していた二期前半の傘木希美(フルート)と鎧塚みぞれ(オーボエ)の関係、誰とでも仲良くする希美と彼女のことを一心に考えて楽器を吹き続けるみぞれの関係にまつわる物語がどうしてもカットされざるをえない(あるいは別枠でやられざるをえない)ということでした。

吹奏楽部のなかの人間関係は濃淡のつきかたが運動部などよりはっきりする印象があります。同期であること以上に同じパートであれば当然関係は濃くなります(とにかく接点が増えるので仲良くなるということだけでなく嫌いになることまで含みます)し、隣接したパート(たとえば木管楽器どうし)ではその次に濃く、逆に関係の薄いパートどうしだと関係が薄くなったりします。しかし関係の薄いひととも同じ曲を同じ場で演奏するので決して無関係でいることはできません。結局、学年・役職(部長・副部長とか)だけでなくパートの配置が関係しながら、部内のひとりひとりのあいだに濃淡の違った無数の関係の線が引かれることになります。したがって、ひとりの人間から複数の線がのびている以上、吹奏楽部の人間関係のどこを切り取ったとしても、非対称でないつりあった関係はほとんど見られないことになりますし、芋づる式に関係の糸がどこまでも続いていくことになります。そう考えていくと、吹奏楽部を描くにあたってある二人の関係に絞るというのはわりあい難しいことのようにも感じられるのです。

 

さて。

もと吹奏楽部員にとって『響け』を感情的に見ないのはきわめて難しいものです。吹奏楽部とひとくちに言っても、どれぐらいの規模か、強いのか、共学なのか、顧問はどれくらい練習にくるのか、外部指導員はどうなのか……ということで雰囲気がかなり変わると思うのですが、このシリーズは多くの吹奏楽部経験者の体験(あるいはトラウマ)を見事に抉っていると思います。私も二期の前半でかなり抉られました(オーボエだったこともそうなんですが、似たような体験もありまして、ね……)。こういうことってよくあるんだなあと思いましたし、ああ物語になっちゃうんだなあと思いました。

というわけでここからは批評から遠ざかって趣味に振り切り、吹奏楽の有名曲を紹介しながら思いついたことを雑記的に書いていこうと思います。もはやこのブログの趣旨を見失いそうですが許してください。ぜんぶ聴くと長くて大変ですから気になった曲ひとつだけでもいいのでぜひ。文章もやたら情報量が多いので読み飛ばしてください。あくまで私は強豪でもない学校で三年だけやった身なのでにわかっぽかったりときどき間違っているかもしれません。

 

・天国の島/佐藤博昭


2011年度吹奏楽コンクール課題曲Ⅱ 天国の島

毎年コンクールのために課題曲が近年は5曲(だいたいマーチ=行進曲が2曲とそれ以外が3曲)発表され、一番編成の大きなA組(上限55人)のコンクールに出場する場合(全国を目指すならA組になります)はその中から一曲選んで演奏することになります。劇中では(おそらく『響け』一期の放送時期に合わせて)2015年度の課題曲『マーチ「プロヴァンスの風」』が演奏されていました。

この「天国の島」は2011年度の課題曲で、日テレの番組『ザ!鉄腕!DASH!!』のコーナー「DASH島」のBGMとしても使われています。課題曲ですべての楽器が活躍するというのは実際難しいなか(オーボエファゴットの譜面には"option"=いなくてもOKとか書いてあったりします)、この曲ではほとんどどの楽器にも見せ場があり、各楽器の役割や音色がわかるという意味でもおすすめしたい曲です。

ほかの課題曲では、たとえば1977年度の「ディスコ・キッド」がいまなお根強い人気があります。

 

・宝島/和泉宏隆作曲、真島俊夫編曲


宝島

吹奏楽部にいると、コンクールなどで演奏するクラシックな曲のほかに、定演(定期演奏会)・学園祭・その他イベント等でポップス曲を演奏する機会があり、そのとき流行っているJポップの吹奏楽アレンジを振りをつけながら演奏してみたり、ディズニーやジブリのメドレーをちょっとしたお芝居をつけながらやってみたりします。そうしたなかで流行に左右されずに演奏され続けているのが「宝島」です。吹奏楽経験者ならおそらく一回は吹くと思いますし、好きな人もきっと多いはずです。聴いていると楽器を吹くときのあの楽しさをいつも思い出します。

劇中では駅ビルコンサートの場面で使われており、テンポの揺らぎや音のバランス、緊張した指回しが伝わるようなバリトンサックス(小笠原晴香)のソロなどがある写実的な意味でそうしたイベントのクオリティなのですが、この曲が演奏の場や団体によって変わる(まあこの曲に限らずですが)のがこの動画からも分かるかと思います。演奏機会は多い曲だと思いますので中高生のコンサートに何回か行けばおそらく生で聴けると思います。

ポップス曲としては同じくT-SQUARE作曲・真島俊夫編曲の「オーメンズ・オブ・ラブ」や、「吹奏楽ポップスの父」とも呼ばれる岩井直溥編曲の「シング・シング・シング」「コパカバーナ」・高校野球応援でおなじみの「エル・クンバンチェロ」「アフリカン・シンフォニー」などが定番です。

 

・ハーレクイン/フィリップ・スパーク(P.Sparke)


Harlequin of Philip sparke by Bastien Baumet and the Taichung philharmonic Wind Ensemble

ユーフォニアムの魅力をもっと知りたいあなたに。優雅なメロディーの前半部と軽妙な超絶技巧の後半部によってユーフォの長所が存分に発揮されているのがこの「ハーレクイン」です。ユーフォのソロ奏者と吹奏楽団が共演する形になっています。ほれぼれしますね。

劇中で久美子はとても「ユーフォっぽい」とあすかに言われますが、どういう意味で受け取ろうかとずっと考えていました。物語にひきつけて考えるなら、中音域という吹奏楽において中間的な位置(中心というのとはまた違います)に立ち、低音楽器としての役回りもメロディや対旋律も幅広くこなすところが、部内であくまで中心には立たずに各パートで起こるいろいろなことに関わる(ほぼ傍観しているだけかもしれませんが)久美子の立ち回りと近いのかもしれない、と余計なことを考えました。余談ですが楽器の名前はユーフォニアムユーフォニウムもどちらも使われています。

ところでユーフォニアムトロンボーンのマウスピースって同じなんですよね。ユーフォニアムの子の姉がトロンボーンをやっていたというのはとても親族って感じがしますね。

「ハーレクイン」の作曲者フィリップ・スパークは、「オリエント急行」「宇宙の音楽」「ドラゴンの年」などで有名な、吹奏楽界で屈指の人気を誇るイギリスの作曲家です。ユーフォニアムのための作品としては「パントマイム」なども知られています。スパークはいいぞ。

 

・フェスティヴァル・ヴァリエーション/クロード・トーマス・スミス(C.T.Smith)


【吹奏楽】 フェスティヴァル・ヴァリエーション

コンクール自由曲の定番、と呼ばれるような曲はそれこそ無数にあり、年によって流行りがあったりもして一曲だけ挙げるのは難しいです。というわけでコンクールでの演奏頻度はとりあえず措き、コンクールで演奏されることも多い曲、として独断でこの「フェスティヴァル・ヴァリエーション」を選びました。華やかで聞いていて楽しい曲なのですが難易度は尋常でなく、特に冒頭は「ホルン殺し」として知られています。

劇中のコンクール自由曲「三日月の舞」はこのアニメのために作られたのではなく既成の曲なんじゃないかと思うくらいに何か「吹奏楽っぽい」です。確かに急・緩・急の三部構成の曲は吹奏楽では多いのですが、それにしてもすごく研究されて作られていると感じます。なぜか「アルヴァマー序曲」を思い出しました。

原作小説ではコンクールの自由曲はナイジェル・ヘスの「イーストコーストの風景」という曲で、確かにコンクールで演奏されている印象があります。私がコンクールでやったのはヴァーツラフ・ネリベルの「二つの交響的断章」という曲でした。ネリベルなんかだと完全に現代音楽という感じですがコンクールではそうした色調のものも好まれます。あとは二期の劇中で使われたボロディンダッタン人の踊り」をはじめ、ラヴェル「ダフニスとクロエ」、レスピーギ「ローマの祭」といった管弦楽の曲の吹奏楽編曲版もよく聴かれます。

 

吹奏楽の曲はたくさんYouTubeにあがっているのでよければ挙げた曲を検索してみたり関連動画からいろいろご覧になったりしてみてください。元オーボエ吹きとしてはほかに紹介したいような曲もあるのですがそれは(今回の記事が怒られなかったら)来年四月に公開される『響け』シリーズの新作『リズと青い鳥』のときにしましょう。フルートの希美とオーボエのみぞれの関係が描かれるということでまた何か抉られて精神が崩れない自信がないのですが、二人の関係だけじゃなくて「ダッタン人の踊り」でオーボエソロとからむ木管楽器、とりわけイングリッシュホルンオーボエ属の楽器)の子との関係が見られるんじゃないかと期待しているのはたぶん私だけなんでしょう。

それでは!

 

(奈)