web版アニメ批評ドゥルガ

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アニメに纏わる記事を書いています。毎月第四水曜日に更新。担当者が異なります。

『アマガミ』の思い出

アマガミ』のネタバレ注意!

新年ですね。おめでたいです。そんなことより、Amazonプライムで『アマガミSS』と、『アマガミSS plus』が観られるようになっていて、とんでもなくめでたい、幸せな気分です。元アマガミスト(PSPが壊れた)の私としては、もう何度も観ている上に、聖地巡礼もしているので、もう一度観て、『アマガミ』に浸かっていた高校時代を思い出そう! と息巻いております。
 こんなに大好きな『アマガミ』ですが、今考えてみると、どうして『アマガミ』を買おうと思ったのかを思い出せません。PSP版を中古で買った時の、あの気恥ずかしさは憶えているんですけどね。多分どこかで実況動画を見たか、勧められたのでしょう。やっぱり人の記憶なんて、あてにならないものです。
 ですが、嫌な記憶となれば話は別で、忘れたいのに忘れられないという記憶を持っていると言う人は少なくは無いと思います。その記憶の内容は人それぞれでしょうが、「恋愛」に関する記憶を思い出したくないという人もいるのではないでしょうか。『アマガミ』の主人公もその一人で、彼(名前はあるのですが、設定でいくらでも変えられるのでここでは〈彼〉としておきましょう)は、中学生の時、好きな女の子をクリスマスイブにデートへと誘います。しかし、その女の子は約束の時間に現れず、その子へのプレゼントまで用意していた〈彼〉は、その後何年もこのことを引きずっており、挙句の果てに、このクリスマスイブの夜のことを夢にまで見てしまうのです。この一連の「記憶」は〈彼〉が乗り越えるべきトラウマとしてゲーム冒頭に示されます。これは「夢で見る」という偶然を装っていますが、プレイヤーにとってはプロローグとして必ず〈彼〉に想起させなければならない必然性を持ったイベントです。この「夢」と友人の梅原による言葉がきっかけで、〈彼〉は「クリスマスイブ(学園祭)までに彼女をつくる」という目標を自覚するわけですが、この「記憶」はそのためのきっかけと言えるでしょう。
この日からクリスマスイブ(学園祭)までの約一か月間を〈現在〉として、プレイヤーは一日に四回、同時に複数生起するイベントのどれを選択するかという形で〈彼〉を操作することが出来ます。そのため、先程のクリスマスイブの記憶はとりあえず〈過去〉の時間と呼んでおくことにしましょう。
〈彼〉はプレイヤーの選択に従って、〈現在〉の時間でヒロインとの恋愛を繰り広げることになりますが、その時間は限られていて、クリスマスイブまででどんな結末を迎えようとも〈現在〉は終わりを告げ、ヒロインと主人公のその後のことはエピローグという形、すなわち〈未来〉でしか明らかになることはありません。『アマガミ』における時間は基本的に、このような〈過去〉、〈現在〉、〈未来〉という三つの時間軸が存在します。これらを構成するイベントは常にゲームをプレイするプレイヤーにとっては現在ですが、ゲームの性質上、上記にあげた三つの時間の内のいずれかに分類されます。イベントの選択画面である行動マップを見ると、最初は行動マップが透明なのですごく分かりづらいものの、進めていくうちに中心部にプロローグ、すなわち〈過去〉があり、そこからヒロインたちのイベントが放射状に広がっていて、マップの周縁部にヒロインたちの各エピローグが散らばっていることがわかると思います。つまり、〈彼〉は限られた時間の中でヒロインと恋愛をし、期限が来て、〈未来〉をちらっと垣間見てしまえば全てを忘れて再び〈過去〉へと飛ばされ、恋愛をし、〈未来〉を見て……というループを繰り広げているようです。ちょっとメタなギャルゲーとかライトノベルなら、このループ構造を物語に組み込みそうではありますが、『アマガミ』はこうしたメタ要素には禁欲的だと言えるでしょう。少なくとも、ゲーム内の〈彼〉がこうした時間構造をメタ認知することはありません。
〈彼〉はゲーム内の〈現在〉で色んなヒロインと恋愛関係を持ちますが、基本的に同時に二人以上のヒロインを攻略しても、一回に観られるエピローグはひとつだけなので、最終的には攻略対象を一人に絞らなければなりません。すなわち、エピローグを観るためには、〈彼〉が主体的に行動する(しない)という選択をする必要があるということ、裏を返せば、一つのエピローグは現在において積み重ねた諸々の選択の集積の結果ということも出来ると思います。そのため、行動マップに散らばるひとつひとつのイベントは、様々なエピローグに向かうための小さな挿話であって(途中ルート分岐の為の星イベントがあり、これを経ることでルートが確定していきます)、それらの挿話が矛盾なく集積されることによって、ひとつのエピローグを迎えることになります。そのため、〈彼〉の自我は、〈過去〉において同一であり、〈現在〉における挿話同士でゆるやかに共有されていたとしても、どのような挿話を集積していくかによってその印象は全く違います。これはヒロインも同様で、主人公と結ばれるルートでも、どのような過程によってそうなるかによって(あるいはならないか)によって、ヒロインのキャラまでもが一変してしまうのが、『アマガミ』の面白いところでもあります。
ここまでは、ある意味恋愛シュミレーションゲームにおけるテンプレートな構造であるとも言えますが、敢えて『アマガミ』が虚構として優れているのは、「上崎裡沙」というキ隠しキャラクターの出し方だと思います。
このキャラクターは、主人公の〈過去〉、すなわちプロローグの原因である人物として登場する、ある意味黒幕的な存在です。彼女は小学生から〈彼〉のことを好きすぎるあまりストーカー化していて、本編では主人公の恋愛を妨害してしまいます。それでも攻略を進めていくと、彼女は中学生時代に主人公のトラウマとなっていたクリスマスイブの約束の時、〈彼〉の隙だった女の子に嘘の待ち合わせ場所を言うという妨害工作を働いていたということが明らかになります。これは、その女の子が、〈彼〉を馬鹿にするためにデートの約束を受けたという事情も重なってのことなのですが、とにかくこの隠しキャラクターは主人公の〈現在〉の原因である〈過去〉のキャラクターで、〈彼〉の行為の発端を成していると言えます。主体的な行為の根拠が、「苦手だった牛乳を飲んでくれた」だけで好きになってしまった女の子の行動という外在的な要素によって担保されていたということを知ることで、私たちは〈彼〉が紛れもない「物語」の中の人物であるということを知ります。
ギャルゲーというジャンルは「恋愛」を扱う以上、「時間」をどのように内容と形式をすり合わせるかが重要なポイントであり、『アマガミ』はその点で見てみると、非常に面白いと思います。

最後に聖地巡礼関係で、去年の三月に行ってきた銚子市の画像を幾つか紹介します。

銚子はアニメ版の聖地です。結構そのままの所もあれば、かなり変わってしまっている所もありました。昨年放送された『セイレン』の聖地でもありますし、銚子電鉄を中心に観光すると凄く楽しいのでこちらも是非。刺身丼が美味しいです。

(錠)

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俗に言う「七咲ブランコ」です。

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薫のバイト先。



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銚子ポートタワー。原作と異なって、水族館は併設されていません。エレベーターが地味に怖い。

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七咲膝枕の地