web版アニメ批評ドゥルガ

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アニメに纏わる記事を書いています。定期更新は毎週水曜日。毎週担当者が異なります。

眼球=視線の導き――長井龍雪『とらドラ!』第一OP

よく言われる事、キャラクターにとってよく口にされることは、このようなものです。

こんな人間いる訳ない。身体は小さくてやたらと頭は大きいし、長すぎる足は栄養失調みたいに細いし、髪の色がピンク、青、緑で、それで優等生や地味な性格なんて成り立つわけない。顔だって鼻と口がほとんどないし、呼吸もできやしないだろう。などなど。

それに「可愛いキャラクター」は「目一杯可愛く」しないといけないのか、仕草まで目一杯可愛くして「被写体からの制約がなくて緊張感がない」「あれは映画に似て映画にあらざるも」のではないか、とは俳優兼映画監督・伊丹十三の『うる星やつら』(押井守監督)の評価です。(『映画狂人、語る』p177)三四年前と現在でキャラクターデザインは大きく変化していますが、おおよそ上のことは違う言葉で、あるいはまったく同じ言葉で反復されてきた紋切型な批判で、目一杯に「」が大きいという解剖学的にはまっとうな批判がその最たるものだというのは周知の事実でしょう。

しかし問題は「眼球の大きさ、その移動がどんな空間を生み出して(捏造して)いるか、ということであって、ヒトとの身体的構造の差異ではありません。伊丹の言葉を借りればアニメは実写映画ではないのだから、そんなことに態々説明責任を持ってあげる必要はないでしょう。

前回の記事から引き続きOP・ED特集ですが、前回の記事にも名前が挙がった長井龍雪監督『とらドラ!』の第一OP「プレパレード」を対象にします。コンテは同監督です。

さっそく見ていきましょう。

以下画像の出典もとはJ.C.STAFFとらドラ!』です。

とらドラ! Blu-ray BOX

とらドラ! Scene1 (通常版) [DVD]

まず初めにピンク色の円が白い背景に広がります。それと同時に橙色ついで空色ついで黄土色ついで肉桂色ついでピンク色ついで橙色の円が広がり、最後に空色の円が広がる前にソックスを履きかけの足がそこに降ろされると円は茶色のシーツの掛かったベッドにすり替わって背景になります。

 

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カメラは弧を描きながら上昇し金髪の少女がソックスを履く姿と彼女の起きたばかりで不機嫌そうな眼球を収めます。しかしこの時、彼女の視線はカメラを捉えているのではなく、斜め手前を睥睨するのですが、その視線を反映したかのようなアングルで先ほど彼女を撮っていたカメラの動きに連動するかのように弧を描いて上昇し、青い髪の少年の後姿を映します。彼は野菜炒めを作っているのかフライパンを振り上げる動きに合わせてソーセージやニラのようなものを油とともに浮かび上がらせます。そして少年もまた視線をこちらに向けますが、今度は不意打ちのように彼の目にクローズアップしていきます。画面には点描のトーンが貼られてクローズアップが最大限にまでなされると点は円になって、タイトルロゴの「と」と白く書かれたピンクの円形が少年の目から現れてきます。

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するとその隣を先ほどの金髪の少女が横向きに左へ歩いていきます。その後は順々に「ら」「ド」「ラ」「!」と同じような円形がそれぞれ橙色、空色、黄土色、肉桂色をして右に連なるように出てきて、それに応じて先ほどの青い髪の少年、ピンクの髪色の少女、緑色の髪をした少年、青い髪の少女が行進のように並んで左方向へ歩いていきます。そこをクローズアップし、再び色とりどりの円形が白い画面に広がると金髪の少女のちらかった部屋が映されます。

もちろんここで現れた円の色は主要キャラクターを象徴するもので、この映像のあとに五人の紹介のように名前が現れるところで単色になるのですが、そこで活かされています。

そして円形、点描、眼球という類似の系列で駆動する映像はカメラ目線では停止を、視線を逸らす場合は移動を導きます。たとえばキャラクター紹介で金髪の少女は背後から撮られ、左方向を向いています。青い髪の少年は階段を降りながら、前髪を左に引っ張り、視線は右向きです。その後にピンク色の髪の少女と一緒に少女は右から左へ、緑の髪の少年と一緒に少年は左から右へと移動します。二人が重なり合うところで少年は左を、少女は右を見ます。場面が変わり、右に少しカメラが移動してピンク色の髪の少女が視線をカメラに合わせます。すると固定の俯瞰カメラで緑色の髪の少年がこちらを見上げてカメラ目線で笑顔を向けます。場面が変わり、見上げる動作に呼応するようにカメラが上昇して座り込んでいる青い髪の少女を映します。彼女もカメラ目線で、しかもクローズアップされます。アップされるとお得意の背景のない画面です。まず四人が並びます。緑髪の少年の横に顔を赤らめながら見上げている金髪の少女、スペースを空けて、青い髪の少年が驚いた顔をしながら見下ろすピンク髪の少女。先ほど二人が重なったときの視線をここで同じ画面に取り込んでいます。

同様にクローズアップされた弁当を食べる金髪の少女が慌てた様子でカメラから左へと視線を逸らすと、場面が変わり、住宅街を奥へと走って、カメラが横につき、右から左へと走り抜いた少女がピンク髪の少女へと飛びつくといった視線を左に逸らすと人物が左へと移動するという運動の連関は自然でありながらとても活き活きとしています。さらにクローズアップされたネイルに息を吹きかける青い髪の少女の顔が映ると視線をカメラに向け、しかしそれは先程クローズアップされたときとは異なり(まず視線に軽蔑のような気怠さがあるのですが)空間がその視線によって作られたかのように、カメラが引いて、青い髪の少年が外を歩くのをカフェのガラス越しに見ている青い髪の少女を映します。

そして弧を描く三幅対という一番の見せ場に入る前に五人を俯瞰からクロースしていき、アップしおわると五人全員で視線をカメラに向けます。三幅対で視線を合わせないのとは対照的です。ソフトボールのユニフォームを着たピンク髪の少女が打席でバットを構えるのを横から捉え、煽るカメラにチアリーダーの衣装の少女が青い髪に手を当てて撫で上げ、金髪の少女が今まで下ろしていた木刀を持ち上げ肩に載せます。この三幅対はドラムのリズムとも相まってかなりスリリングです。そして今まで交錯していた視線=眼球が一挙に画面を支配して金髪の少女の目がやっとカメラを捉えると、

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背景のない白い画面に少年と少女は背中合わせに、互いに視線を向けあうようにしながら、その視線のためにカメラは回って、再び五人になるとタイトルロゴが現れて、本編です。

とらドラ!』のOPが眼球=視線によって駆動されていることは此処まで見てきた通りです。

眼球の類似=点描 視線の移動=運動空間をそれぞれ導いています。

ではどうして『とらドラ!』の第一OPが眼球=視線を重視するかといえば、それは主人公である「高須竜二」が目つきが悪いせいでクラスで誤解されているという設定だから、と言えば足ることでしょう。目が口よりもものを言う、目が表情を、心象を示してしまうのですから。同じようにこの作品では多くのキャラクターの本音と建前が交錯しています。ジュブナイルものの定番でもある他者と「向かい合う」という主題を反映しているともいえるのではないでしょうか。

もちろん解釈など無用ですが、一つの細部が複数に分岐してそれぞれ別々の細部を呼び込んできてつくられた映像は音楽と相俟って見ていてとても気持ちの良いものです。ぜひOPは二話からですが、鑑賞推奨です。