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細部の連関、写真と目覚めという契機――『けいおん!』をめぐって(1)

昨日、ドゥルガとしては初の勉強会を行いまして、いろいろと議論することができました。

扱ったのは『映画けいおん!』(2011)です。

 

映画 けいおん!  (Blu-ray 初回限定版)

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 ご存知の方も多いと思いますが、『けいおん!』(アニメ版一期2009、二期2010)は女子高生五人(唯・澪・律・紬とひとつ後輩の梓)の軽音部での日常を描いた作品で、いわゆる「日常系アニメ」と呼ばれるカテゴリーに入るものです。日常系作品うち多くの割合を占めるのは芳文社の『まんがタイムきらら』系列の雑誌に掲載された漫画が原作のものなのですが、『けいおん!』も『まんがタイムきらら』を中心に連載されていました。

(『まんがタイムきらら』系雑誌の作品にどのようなものがあるかについては以前『きららファンタジア』について紹介した記事(↓)をご参照いただくとよいかもしれません)

 

durga1907.hatenablog.com

 

次号の冊子で扱うテーマが日常系なので有名作のひとつをと思って選んだのですが、結果として日常系でありながらそこだけに収まらないような要素(クラスメイトや父母との関わりがあって中心人物だけの関係に収束しないこと、日常の「終わり」=卒業による関係の変化まで描き切ったことなど)を含んでおり、勉強会の題材としては好適だったと思います。

映画けいおん!』は、三年生四人が受験を終えて卒業も間近になった頃に卒業旅行として梓を入れた五人でロンドンに行くという出来事と、卒業旅行を挟みながら四人がひとり高校に残ってしまう梓のために楽曲を作っていく経緯が物語の中心となっています(出来上がった曲は卒業式の日に梓に披露されるのですが、その様子は二期のTV放送最終話とこの映画版の終盤で描かれます)。110分ありますが、あらすじにめくるめく展開といったものはやはり存在しません。TVシリーズで描かれていたのと同様に、音楽室兼部室でまったりお茶とケーキを味わい、機会を得て演奏し、最後に卒業を迎えるだけです。しかし細部において京都アニメーションおよび脚本の精髄がTVシリーズにも増して発揮されており、じゅうぶん完成度の高い作品と言えるものでした。

質の高さのひとつには、映画向きの凝ったカットが(特に序盤で)多用されていたことが挙げられます。例えば三年生四人が渡り廊下で「梓に何かをあげたい」と会話する場面であったり、あるいはそれに続く平沢家の食卓の場面で、唯の妹の憂が食事を用意しているテーブルがさまざまな角度で映され、そのカット同士が憂と唯の視線がつながることによって連続するところ(何というか言葉でお伝えしにくいので映像をご参照いただければ幸いです。冒頭から12分のあたりです)などに、平均的なTVアニメでは見られないようなコンテの技術があったように思われます。脚本も、ヘンゼルとグレーテルのように飴を落としておく場面、ドライヤーを変圧器なしでプラグに差してショートする場面、はさみにいたずらが仕掛けられていることに気づく場面など、一見他愛ない光景が間隔をおいて反復されており、物語全体がばらばらの断片にならずにうまく接続し合うようにできている印象を受けました。同じ吉田玲子さん脚本の作品では、例えば『劇場版ガールズ&パンツァー』などでもその丁寧な伏線の張り方に驚いた記憶があります。

映画のなかの場面同士の連関だけでなく、これまでのTVシリーズの場面との連関もかなり意識したつくりになっていました。それにより、TVシリーズを見てから映画版を見ると彼女たちの文脈というものを強く感じさせられます。二期の卒業式回との対照を抜きにしてもこれは挙げればきりがないのですが、いちばん強く意識されているのは、冒頭、写真のカットから始まり目覚まし時計が鳴って唯が起きるという一連の流れではないかと思います。一期および二期の冒頭でもほとんど同じように物語が始まっており、このパターンはほとんど物語の契機とも呼べるものです。

ただし、写真に写る光景や人物は、それぞれの場合で異なっています。写真に写る人物によってそれまでの人物関係および時間の流れが視聴者にすぐ了解されるという効果をこの冒頭は持ってもいます。卒業式回以後の話数(二期#25-27、TV未放送話)でも写真は多用されるのですが、それもやはりこれから語られる物語が時間軸のどの位置にあるのかを示しつつ視聴者にその時空間へ向かわせる方法として使われています。

けいおん!』の作品を通底する時間の問題や人物関係の問題が、この冒頭場面にもすでに象徴的に表れているといえます。それについて、次回以降の記事では詳しく書いていきたいと思います。

 

◆これからしばらく連載のような形で『けいおん!』について更新していきたいと思います。今週土曜日(8/5)には完結する予定です。お付き合いいただければ幸いです。

 

(奈)