web版アニメ批評ドゥルガ

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アニメに纏わる記事を書いています。毎月第四水曜日に更新。担当者が異なります。

ネオ・ヴェネツィアの想像力――『ARIA』聖地巡礼

以下批評とあんまり関係ない文章になるので恐縮ですが、ヴェネツィアに行ってまいりました。

ご存知の方も多いと思いますが、ヴェネツィアはさまざまな創作物の舞台ともなっていて、アニメファンには『ARIA』の舞台「ネオ・ヴェネツィア」のモデルとしても知られています(『ジョジョ』などの聖地でもあります)。

 

ARIA The ANIMATION Blu-ray BOX

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ごく簡単にですが概略書いていこうと思います。写真に慣れていないのでうまく撮れた写真があんまりないのですが貼っていきます。(もとから風景がきれいなのでそれで補正されます)

 

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いかにも水の都です。天気にも恵まれました。

車は入れないので自分の足とヴァポレット(水上バス)が移動手段です。ゴンドラは移動手段というよりは観光用です。乗りたかったのですが……いいお値段しまして……

 

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ヴェネツィアは潟(ラグーン)の上に建物を築く形で街ができました。駅や街のシンボルのサンマルコ広場があるヴェネツィア本島のほかにも島が点在しています。写真は街の南にあるサン・ジョルジョ・マッジョーレ島の鐘楼から本島のほうを見たものです。右の高い塔(鐘楼)のある場所がサンマルコ広場です。奥にはイタリアの本土もうっすら見えます(本土とヴェネツィア本島は3850mのリベルタ橋でつながっています)。島内に地形的な起伏はほぼないので、地面が平坦なぶん、空がとても広く感じられます。かなり平面的な地形です。

ARIA』はテラフォーミングによって水の惑星となった火星《アクア》を舞台としており、ネオ・ヴェネツィアは火星入植の際に地球《マンホーム》にあったヴェネツィアの建造物を移転した街であるという設定です。それゆえヴェネツィアの地勢や伝統を下敷きにしつつもさまざまな点で差異が多くみられます。ネオ・ヴェネツィアの空にはアクアの気温を適温に維持するための《浮き島》が浮かび、アクアとマンホームの間を行き来する宇宙船(というべきかなんというべきか)が飛び、空を飛んでものを配達する職業の人がいたりします。あるいは話数が進むにつれ地中で働く人の存在が明らかになったりもします。地形的な面でも、街から少し離れたところに丘があったりなどけっこう場所によっては起伏のある様子がうかがえます。そういうわけで、ネオ・ヴェネツィアは実際のヴェネツィアよりかなり上下に幅のある立体的な世界をしている印象があります。

 

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溜息の橋です。前にゴンドラが写っていますが、後ろでオールを漕いでいる赤と白のボーダーシャツを着た人がゴンドラ漕ぎの人です。見た限りほとんどすべてのゴンドラ漕ぎの人が同じような格好・年齢の男性でした。

 

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ホテル・ダニエリ。高級ホテルです。主要人物のひとり・藍華の所属する「姫屋」の建物のモデルです。漫画でみるとこれよりかなり建物の幅が広いように感じます。

 

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本島の北にあるヴェネツィアンガラスで有名なムラーノ島です。

 

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猫です。『ARIA』作中でもだいじな動物として登場するので変な感慨がありました。

 

写真がなぜかないのですがヴェネツィアは路地歩きが楽しいです。ヴェネツィアの入口であるローマ広場やサンタルチア駅からサンマルコ広場への道は観光客がたくさんいてそれ向けの店が軒を連ねているのですが、主要な道からはずれると閑静な、それこそ迷路のように入り組んだ細い道がたくさんあります。路地と同じくらい細い運河や橋も無数に存在します。あの細い道や運河の先にちょっと不思議で素敵なことが、というような『ARIA』の想像力は実際にモデルになった街を歩くと納得できることです。

しかし『ARIA』の想像力は(ネオ・)ヴェネツィアの内側だけでなく外側にも広がっています。ネオ・ヴェネツィアの街の外側には、日本の雰囲気をもった村のある島(伏見稲荷などをモデルにしているようです)があり、丘があり、その他実際のヴェネツィアにないような場所がたくさん存在しているからです。ヴェネツィアは水に囲まれている以上、一般の人にとっては大陸との間の橋か空港とヴェネツィアを結ぶ水上交通しか外に出る道筋がなくある意味で閉鎖的な印象を受けるのですが、ネオ・ヴェネツィアで暮らす主人公たちはゴンドラ漕ぎ(ウンディーネ)であり、ゴンドラで自由に街の外へ行くことができるので、ネオ・ヴェネツィアはかなり外側にも広いというか、『ARIA』の世界の周縁がかなり遠くにあるように感じられます。《アクア》もネオ・ヴェネツィアも全体像は見えず、ことなった断片的な細部だけがいくつもあらわれることによって場のイメージが形成されているように思います。

結論を言えば、『ARIA』のネオ・ヴェネツィアは実際のヴェネツィアよりもかなり内側だけでなく外側にも上下にも広く感じられるな、ということで、それは「素敵んぐ」な想像力の産物なのでしょう、と歩きながら考えたのでした。

ARIA』にテラフォーミング等々のSF的な設定が必要だったのだろうかと数年来思っていたのですが、本当のヴェネツィアではおそらくあそこまで自由に広がりのある世界を描くことは確実に不可能だったな、と今回感じた次第です。

 

(奈)